着工前から増額要請?完了した工事に「増額」は可能か?
3行で言うと・・・
・ごみ処理施設36億円増額は「着工前」から請求を受けていた
・今さら、完了検査を経て支払いも済んでいる工事まで、増額の対象にするのはおかしい。
・増額を少しでも相殺するために「賑わい機能25億円」を削減する検討は無し
久喜市の豪華ごみ処理施設の36億円増額問題を、議会で確認しました。
多くの疑義が残りましたので、報告いたします。
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「着工前」から増額請求
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今回の36億円増額は、「着工前」の令和5年10月10日に事業者から請求を受けていたことが明らかになりました。
本来であれば、増額の請求を受けた時点で議会にも報告があるべきですが、議会には明かされないまま事業者との調整が進められ、「補正予算」として私たちが知ることになったのは、令和6年11月でした。
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完了した工事に対し、予算措置は可能か?
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ゴミ処理施設の整備契約では「出来高払い」が採用されています。
これは要するに「年度ごとに、工事が終わった分から、支払う」という方式です。
現に、令和5年度には「杭打ち工事」が完了し、市の検査に合格の後、約8億4千万が支払われています。
また、令和6年には「基礎工事」が進められており、約18億5千万円が支払われる予定です。
民間とは少し異なり、行政の場合は「会計年度独立の原則」が大前提です。
これは例えば「2023年度に掛かった経費は、2023年度に支払ってね!」という考え方です。
※財政法12条「各会計年度における経費は、その年度の歳入を以て、これを支弁しなければならない。」
「会計度独立」の例外となるのが「債務負担行為」の設定(家計で言うとローンの設定)ですが、
これは、言うまでもなく「事前に」設定する必要があります。
前述の通り、増額36億円分の債務負担行為は組まれないまま、令和5年の工事は契約書に基づき、完了検査のうえ、対価の支払いを完了しています。令和6年度分も、少なくとも現時点までの工事は完了しているでしょう。
国は過去に以下の通知を発出しています。
「公共施設建設にあたり、債務負担行為を設定し、建設に要した経費を建設完了後も長期に渡り支出する行為は債務負担行為の趣旨に反する」
出典
https://www8.cao.go.jp/pfi/pfi_jouhou/archive/hourei/tsuutatsu/17fy/pdf/470930saimu.pdf
以上のような法令や通知の趣旨に照らせば、今回久喜市が進めようとしている、
役務が完了している分の工事に対して、後から債務負担行為を設定すること
後から設定した債務負担行為に対して、後年度に予算化すること
という手続きは、債務負担行為の考え方に反するだけでなく、財政法12条の趣旨にも反するものと考えます。
さらに久喜市は36億円の増額分を「令和8年度~10年度に支払う」という方針も表明していますが、これは極論「令和5年の工事に対する対価を、令和10年度に払う」ことを意味しかねません。
※地方自治法施行令143条「工事請負費で相手方の行為の完了があった後支出するものは、当該行為の履行があった日の属する年度」
出典
https://www.city.asahikawa.hokkaido.jp/500/565/578/580/p003783_d/fil/02jiti-sekourei.pdf
会計年度独立の原則に真っ向から対立するような運用を、市長は認めるのでしょうか。
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予算の裏付けが無いままの工事は可能か?
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行政のあらゆる事務は「予算の裏付け」が必要です。
※地方自治法第232条の3
「普通地方公共団体の支出の原因となるべき契約その他の行為は、法令又は予算の定めるところに従い、これをしなければならない。」
これも、会計年度独立の原則と並んで、基本中の基本です。
今回、久喜市は令和5年度及び令和6年度の工事も増額対象としていますが、
令和5年度はもちろん、令和6年度(現在)時点では、工事費の増額は議決や専決処分などの手続きを経ていません。
工事費増額の裏付けが無いまま進められた(完了した)工事を事後的に増額することが認められるはずもありません。
完了した工事に対して後から「増額分」が算出できるということは、当該工事が「増額を前提として」行われたと考えるのは自然でしょう。
仮に「増額を前提とせずに」従来の契約に沿って完了したならば、従来契約額の通りに支払えば良いだけで、増額の必要はありません。
そもそも、一定額以上の契約変更には議会の議決が必要です(一定額以下であれば、市長の専決処分もあり得ます)。
こうした手続きを一切経ずに、事後的に工事費を増額することは、議会軽視であるだけでなく、コンプライアンス的にも大いに疑問です。
全国的にも、同じような事例が問題になっています。
久喜市の事例と、こうした事例の何が違うというのでしょうか。
【議決を経ないまま上限額を超える工事:大山崎町】
https://www.town.oyamazaki.kyoto.jp/annai/somuka/somukakari/8673.html
【議決を経ないまま増額:飯田市】
https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2022051800077
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インフレスライドを適用する是非
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物価高騰に対する増額パターンは、「インフレスライド」「単品スライド」「全体スライド」の3つが存在します。
色々と諸条件はありますが、「負担」の側面からの理解としては以下の通りです。
「全体スライド」:業者負担が多い(増額の1.5%が業者負担)
「インフレスライド」:業者負担が少ない(増額の1%が業者負担)
業者負担が少ないことは、裏を返すと市の負担が多いことになりますので、どの「スライド」を適用するかは、非常に重要となります。
市は今回「インフレスライド」を適用する方針を示しました。
その理由は「労務単価が上昇した場合は、インフレスライドが適用されるから」とのことですが、
「労務単価の上昇」=インフレスライド
という直接的な文言は国・県の資料には見当たりません。
【埼玉県スライド制度】
https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/32381/r50123leaflet_suraido.pdf
【国交省インフレスライド運用マニュアル】
https://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000093977.pdf
※以下画像は埼玉県スライド制度のページより引用。赤線・青線は筆者による加筆
委員会審議で担当者は、以下赤丸部分を根拠に労務単価の上昇=インフレスライド
という説明を繰り返しましたが、青丸部分の通り「労務単価の上昇」という文言が掛かるのは、インフレスライドだけではありません。
埼玉県の資料を素直に解釈すれば、インフレスライドの適用は「短期的で急激な」という条件がつくと解釈するのが当然でしょう。
そもそも何億円も影響が出る判断の根拠が、スライドの一部にある文言の解釈だとしたら、あまりにも弱いと言わざるを得ません。
では、次に労務単価の上昇が「短期的で急激か」です。
コチラの資料によると、公共工事設計労務単価は、12年連続で上昇しています。
https://www.zenkensoren.org/attempt/attempt-7988/
上昇はしていますが
「予期できない」
「短期的で」
「急激な」
という条件を満たしているとは、到底思えません。
尚、久喜市に、本件で「予期できない」「短期的で」「急激な」状況であると、判断した根拠を求めましたが、具体的な説明はありませんでした。
久喜市と事業者が結んだ契約書にも、インフレスライドを適用する場合を以下の通り規定しています。
※久喜市新ごみ施設整備運営事業に関する施設整備請負契約書42条6項
「予期することのできない特別の事情により~急激なインフレーションまたはデフレーションが生じたとき」
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本件が「前例」となるリスク
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ここまで述べてきた通り、本件は
「労務単価の上昇していれば、インフレスライドを適用し」
「事後的に工事費を増額できる」
という「前例」となりかねません。
労務単価は12年連続で上昇していますので、このままの傾向が続けば、いつでもインフレスライドの適用が可能と解釈できます。
行政は「前例主義」です。
地方自治法、財政法をはじめ関連法令の趣旨を鑑みると、大きな疑問が残る運用が「前例」となること自体が大きなリスクでしょう。
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他でコストを下げる検討は無し
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物価高騰により、経費が増大するならば、他でコストを減らす努力をするのが当然です。
例えば松江市では、新庁舎建設工事が物価高騰の影響を受けた際に、設計に変更の無い範囲で部材を変えるなどして、コストを下げる努力をしています。
参考:松江市
https://www.city.matsue.lg.jp/soshikikarasagasu/seisakubu_kohoka/koho_kocho/sityoukaikenn/2023kaikenn_1/1122/11242.html
久喜市も、こうした検討をしないのか、確認をしたところ
「何一つ欠かすことができないので、検討のしていない」との趣旨で答弁がありました。
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以上の通り、そもそもインフレスライドが適用されること自体に、承服できませんし
既に終わった工事に対して遡って増額することにも疑義があることから、本件に私は反対します。
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