クリスマスの思い出

【それはどっちでもいいだろ】

10年前のクリスマス。

私は、今は無きユニー騎西店にて、クリスマスのチキンを販売していた。



写真がその時の様子である。


試食販売員のほとんどは、専門の人材派遣会社から派遣される。

私が登録していた派遣会社の場合、派遣先は毎回変わるのが当たりまえ。

時おり、派遣会社から社員さんが巡回に来ることもあるが、一人で現場に行き、業務を完結するのが基本だった。

焼き肉のタレを売りに、突然千葉県の知らないスーパーまで行かされたこともあった。

派遣会社が会社が我々アルバイトに課していたルールは一つ。

「(派遣先のお店に設定された)既定の数を売り切ったら、帰っていいよ」


私は、1秒でも早く商品を売り切る方法を考えた。

時はクリスマス。商品はチキン。

サンタの服装をするしかない。


皆がテーマパークでは、着ぐるみに躊躇なく抱きつくように、

「サンタ」のキャラクターは、皆の警戒心を一瞬で解くに違いない。

服装については、特に制約はないが就業規則には「一般常識の範囲内での私服」とか定められていた。

サンタの服装はギリギリアウトの可能性がある。

止められるリスクを考えて、私は派遣会社にサンタの衣装を着る許可を取るのを止めた。

万が一、社員さんの巡回で服装の指摘を受けたら、

「これが私服です!」


逆ギレすればいい。一般常識に定義など無い。

サンタに着替え完了。

爆速の売上を期待し、ムフフと店内に入った瞬間、私は目を疑った。

•••••••••••••••

店はサンタで溢れていた。


スーパーの店員さん全員、サンタの服装をさせられていたのだ。


何なら、100均一で300円を払い購入した私の高級サンタ衣装より、クオリティも高い。

向こうにはファーもついている。


サンタに埋もれた私の売上は低迷し、

安物のサンタの衣装のせいで、全身が蒸れた。


ファスナーなどついていないので、トイレも行きづらい。

昼休憩で、私はひっそりとサンタを脱いだ。


思えば、焼き肉のタレを売るために、千葉県東金まで行かされた時も、

試食用の肉目当てで群がってくる、お客さんを前にテンションが上がってしまい

試食用の肉を序盤で使い切ってしまったこともあった。

誰が、スーパーのど真ん中で、焼き肉のタレを単体で舐めるだろう?


試食は難航を極めた。

開店から夕方までいて、売れたのは3本。

そのうち1本は、責任を感じて自分で購入したものだった。


あれから10年。

昨日何気なくコンビニに入ると、真顔の店員さんが、頭にトナカイを付けていた。

せっかくトナカイつけているんだから、もう少し明るく振舞えばいいのに、、とか思ったが、思い直した。

10年前、安物のサンタを着て、全身の「蒸れ」と闘っていた私は、トナカイの彼よりも真顔だった。


経験した人にしか分からない苦悩がある。

「お前の気持ち分かるぞ」

というエールを込めて、

「頭のトナカイ、カッコいいですね」と言った。

返ってきた言葉は

「いや、これ鹿です」


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それはどっちでもいいだろ!!


メリークリスマス。

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